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結果が人をつくる(メダリストの話)

この日記はフィギュアスケート漫画、メダリストのアフタヌーン2023年11月号最新話のネタバレを含みます。

ネタバレを容認できる方のみ、先へお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メダリスト、フィギュアスケート漫画。

女子フィギュアスケート選手として、11歳でコーチと出会い本格的に競技を始め、ライバルや友人との出会い、そして戦いを通じて、夢へ向かって進んでいく。そんな、出遅れた主人公いのりを中心にノービスからのフィギュアスケートを描くのが、つるまいかだ先生の「メダリスト」だ。

主人公の結束いのり、そのコーチの明浦路司、そしてライバルにして3Aや3Lz-3Loという高難度ジャンプを飛ぶ天才 狼嵜光や、そのコーチにして五輪元金メダリスト、伝説的なスケーターである夜鷹純など、強烈な個性を持ったキャラクターたちを中心に物語は動いていく。

描かれる大会はいのりも出る女子の大会が中心だ。

 

男子選手としては、五輪元銀メダリストの父を持ち、その父から指導を受ける鴗鳥理鳳という選手が出てくる。

いのり、光、理鳳は同い年。

天才・狼嵜光と、遅れてきた少女 結束いのりを

男子サイド、そして競技者の息子というサラブレッドの視点から見る人物である。

 

理鳳は、フィギュアスケートをやりたいという思いだけで不利な立場から競技をスタートさせたいのり(現役時代の司も)と、ある種では正反対の存在である。

しかし、その理鳳は壁に突き当たる。

父が成し遂げられなかった夢、夜鷹純という天才の幻影、天才として理想を体現するリンクメイトの光……。

将来を嘱望される有力選手でありながら、ただの「有力選手」であることを彼自身が認められない、銀メダリストの息子として求められる理想の幻影だけが肥大化していき、彼はスランプに沈む。

 

そんな息子を見て父、鴗鳥慎一郎が選んだ選択は、しばらく他所のリンク、他所のコーチに預けること。

そして、鴗鳥理鳳は明浦路司と出会う。

 

一方、明浦路司は、銀メダリストの息子としてではなく、鴗鳥理鳳としてのスケートを見、褒める。

しかし、理鳳は彼自身がされてきたように、司コーチを肩書で見ようとしてしまう。

反発する理鳳に対し、司は、元選手としての肩書は何一つとして無いことを正直に打ち明ける。

しかし、スケーティングで理鳳に語る。その滑る姿は誰よりも素晴らしいものであった。

 

理鳳がスランプの壁をぶち破るのはその後のことである。

 

 

 

さて、前置きが物凄く長くなった。

理鳳は全日本ノービスAへとコマを進める。今号はその、理鳳の全日本選手権の話である。

 

前日の女子ノービスAは、天才 狼嵜光の異次元の演技、それに挑んだ鹿本すず、胡荒亜子、そして結束いのり。超ハイレベルで話題に満ちた一日だった。

 

理鳳はこれまでで一番いい演技をノーミスで終え、パーソナルベストを出す。

とはいえど、前日の光のスコアと比べると、それは控えめな点数であり、4回転はもちろん、3Lzもまだであり、これまでの成果はありつつも、さらなる余地を残した内容でもあった。

理鳳は一旦喜んだのち前日の光を思い出し、天才の境地に無いことへのコンプレックスと、表彰台は後続選手が取るだろうという諦めの感情を抱き、まったく結果に期待もせずに控室にいた。

 

が、なんと後続が立て続けに失敗し、そのまま優勝してしまう。

その後の理鳳の心の動き、行動は作品を読んでいただくとして……

 

私がこのエピソードで思い出したのは、不世出の天才 柔道の野村忠宏さんである。

柔道一家に生まれ、父は監督、祖父は館長、叔父に五輪金メダリストというサラブレッド。

しかし1996年のアトランタ五輪で初優勝するまで、なかなか大会で目立った結果を残せていない、無名の存在だった。

そして、この年の最大の注目は、1992年バルセロナの雪辱戦、今度こそ金メダルをと日本中の期待がかかる女子の田村亮子選手だった。

 

同日の試合ということもあり、話題は田村亮子一色。

一方の無名でマスコミや一般から期待値は高くなかった野村忠宏選手だったが

3回戦で優勝候補を破ると、その勢いのまま金メダルを獲得する。

 

そして、その後の偉業は誰もが知るところだ。

 

 

鴗鳥理鳳にとっての、思いがけない勲章となった全日本ノービスA金メダル。

理想のスケーティングには道半ばにありながら転がり込んできた金メダル。

だが、結果は人を成長させる。

彼が獲得した金メダルが、彼を素晴らしいスケーターへといざない、偉大な選手の最初の大きな足跡となることを期待せずにはいられない。