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マスク2枚配布は行動経済学に基づいた施策である可能性 (マスクとナッジ)

※はじめに……行動経済学について専門的に勉強したわけではないので
 内容に重大な誤りがあればご指摘いただけると有り難い


国が国民1世帯あたり布マスクを2枚配布する。
初め聞いたとき正直な話をすると私も困惑した。

手間暇お金をかけてする意味がどれほどあるのか。
ちょうど現金給付が期待されていたタイミング
しかも4月1日ということもあって
マスク2枚は落胆と笑いを巻き起こした。


しかし数日経ってみて、これは実は
行動経済学的に裏付けのある施策なのではないか
と感じるようになった。

その理由を以下に書こう。


ナッジという言葉を知っているだろうか?

2017年にノーベル経済学賞を受賞した
リチャード・セイラー教授が提唱した理論であり
和訳すると「ひじで軽くつつく」という意味。

ちょっとしたきっかけを与えることで行動を促す考えである。

ナッジの最も有名な例としては

公衆便所の小便器にハエの絵を描いたところ
みんながそこ目掛けてするようになったので
掃除代が滅茶苦茶安くなった

というものがある。


さて、ここで布マスクの配布について考えてみたい。
現在マスクをつけずに外出する人には
どのようなパターンが考えられるだろうか?

 

1.あればつける(積極派)
2.特に気にしていない(中立派)
3.つけたくない(反対派)

 

この中で積極派はマスクを配ればつける。

 

次に、中立派。ここがポイントである。
この人達にはマスクを配るという行為がナッジになると思われる。

ナッジにおいて「デフォルトバイアス」と呼ばれる効果がある。

 

ここで一つの実例を。

ある国では臓器移植のドナー登録者が非常に多く(9割が登録)
またもう一方の国では非常に少なかった。(1割が登録)

国民性の違いだろうか?

 

答えは設問にあった。

非常に少ない国では
「ドナー登録に同意ならチェックをつける」
であり

一方、非常に多い国では
「ドナー登録を拒否するならチェックをつける」
であった。

つまり人々は現在の状態から変化させることに
ためらいを感じる習性があるために
デフォルトの設問次第で、結果の差異が生じていたのである。

(ちなみにこの仕組みを悪用すると、アンケート結果を簡単に操作できてしまう)

さて、ここでマスクについて考えてみよう。
わざわざ探したり、買いにいったり、お金を払ったりすることは
強い状態変化にあたる。


しかし何もしなくても手元にマスクがある状態になるのなら
つけて外出することを促せるのではないだろうか。


最後に反対派について考えてみよう。
つけたくないので基本的につけない。
ただし、もし街中の人が全員マスクをしていたら……?
その中でも絶対につけないという強固な信念を持つ人がどれほどいるだろうか?
周囲の目もあるのに、つけないことに価値を見いだせるだろうか。

これはナッジの「社会的選考」というものに当たるようだ。
人間は群れで生きる生き物なので
自分の意志は集団の傾向に左右されるというものである。

急に閣僚が揃ってマスクをつけはじめたのも
視覚的に「社会的選考」を働きかけることを狙っていると思われる。

 

また、マスクをつけるという行為が衛生に注意を払わせ意識向上する可能性がある

との指摘もあった。

BBCが東アジアのマスクとナッジについて書いた記事
https://www.bbc.com/news/world-52015486

 

枚数に関してもなぜ2枚?は大きな話題になった。

これも疑問なのだが、そもそも現時点で用意できる数がそれだった可能性はある。

まず、どの家庭にもマスクが配られることによる着用へのナッジは間違いなくある。
その上で、自粛下で外出が必須となるのは勤務か家事の為、1家庭で2人と見做したのかもしれない。

単身世帯としては、洗ってローテーションできるので2枚は助かる。
昼間買い物に行けないしね。

バカバカしい施策に思われたが、この施策だけで感染症が食い止められるものではなく
あくまで様々な施策のうちの一つが大々的にクローズアップされたものに過ぎない。

マスク2枚以外の施策も含めて、生活保障と感染症防止の両面から
有効な施策が打ち出されると信じている……信じたい。